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白の旋律〈白の光〉~旋律№28 Searching a key-hole~

〈白の忘れモノ〉

旋律№28 Searching a key-hole
                                                                 白

――‐ 降り始めた雨は止むことを知らず、明日があることさえをも不安にさせる。
人々は逃げ惑い、隠れあい、なんとかして時の枠を壊そうと

交、 錯 、乱、 狂


リズムは円を描き、渦を巻く。交錯 錯乱 乱狂……

 そこには見えない影達が群れをつくっているようで、今静かに賑(にぎ)わいだした。

傍観者達はその光景をただうっとりとだけ眺めている。 ――‐ 


――― これから話し出すことは、その全てが未来でのノンフィクションです―――

靴の中身 針の先


 公園で小さな子たちが遊んでいる。そこらには乱雑にほっぽられたランドセルたち。その中の砂場の上の赤い一つがその口を開けていて、その口いっぱいににやはり口の開いた無数のタバコの箱を美味そうに頬張っている。


ゼロの味


 この世界はなんなんだろう。瞼(まぶた)をこする時にだけ現われてくる、なんだかモワーッとした次々と広がって来る白と黒の連続の世界は、なぜだかずっと見ていたくなるような、二色だけの世界。広がって離れて混ざり合って、落ち着いたかと思えばまた異なった表情の連続だ。


本日の白


「紫苑ちゃーん、ほら夕ごはんの時間だからもう帰るわよ。」
「ハ~イ。ねぇママ今日ねシオンね……」

小さい子たちの姿が消えた頃には、どちらが天か地なのかがもう分からなくなるほどの驟雨(しゅうう)がこの世界となって

 公園の砂場には、あの赤いランドセルがほっぽられた時にできたんだろう、擦れ跡と足跡。そのくぼみに雨水が溜まりキラリ。
 そのキラリは、水中から外の世界を眺めていた、眺めて、眺めて……


道しるべになろう


 感覚が変わった。ユ~ラッと浸っていたのと、キラリを支えていたジャリジャリとした砂の感覚が、身にタンッ、トンッ、と雨粒があたり、そうだ、背中を支えている感覚はさっきよりも少しヤンワリとしていて、それでいて少し温かいのかもしれない。
 また異なった心地良さなのかな、もうすこし、うん、もう少しだけ


探しモノ、もしもその対象物が自分の声だったら、
大切なあの人への想いだったら、
この星の名前だったのなら……


キラリは柔らかくてそれでいて、ぽーっと薄暗い世界に包まれました。さっきまで自分の背中を支えていたあの感覚が、全身に接して、今度は包まれています。

 ピチャッ、ピチャッ。ピチャッ、……
 
その音と同時に身体に伝わる優しいバイブル
包まれている世界の隙間から、ヒンヤリとした微風と外の雨音、

ピチャッ、ピチャッ、トンッ、トンッ、ヒュー、ヒュー、ザザー、ザー

 
ピチャッ、ピチャッ、……

 何度その音を聞いたんだろう、すごくこの場所が心地良くて、眠ってしまったのかもしれない。こんなにも気持ちは楽になって、温かになって軽くなって、内から外へと自然と解き放たれていくよ


……ピチャッ。

音が止まった。バイブルも止まった。
キラリはふっと目を開けてみた。天井が回っている。大きな世界だ。そしてまた、
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

 どうやら自分は進んでいるらしい、いや、正確には今いる位置が終始変化している。その証拠に少しずつだけれど見えている世界の感じが変化してきている。
 そうだ、さっき自分は水中にいたんだっけ、そうだっけ?自分は、いつからここにいるんだっけ?生まれた時からずっとここだとしたらどこで、何のために、誰かのために、自分がここにいる理由は?ナニ?どこへ、


幻幻


カンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッ……ガタンゴトンッガタンゴトンッ、ブー、ブーーー

世界の隙間からチカチカとした赤い光が差し込んできた。
少し刺激が強い。それにリンクしている音の性なのかな、その音と音の間に挟みこまれているようで、怖くなった。不安にもなった。早く、早く、早く終ってほしかった

ガタンッゴトンッガタンッゴトンッカタンッコトンッカタン……グググゥーキキィーーー

音と光とが止まった。呼吸が荒れていたみたいだ。あの音の性で気付けなくて。また、目を閉じた。また少し休まないと、少し、ハァー、ハァー、フゥーーー

ピチャッ、ピチャッ、

ドクンッ、ドクンッ、ドドッ、ドクンッ


白界、開界


 風も雨も光も人も、影も月もネコさんも太陽も自分からはみんな逃げていく。屍(しかばね)だけが残って、君はトモダチ、スプレーを吹きかけてやろうか、その顔に向けて、この世のピンク色した、缶がボコボコに潰れちまうくらいに強い圧力をかけるその中で、
 自抑(じせい)だ、自抑しなきゃ、自抑だ、自抑を思い出せ、戻れ、戻るんだ、自分を強くキツク抑えつけてやらないと、時の流にまた傷を付けることになるぞっ!


鶏が先か、卵が先か?


ミャー、ミャー、ミャミィー

 片足を紅く染め上げたチッコイ白ネコさんが懸命に前へ前へ、こっちへ来ようとして、

 寄り添って、頬から全身をすり付けているのか、あるいはただ単に立つ力なくもたれ掛かっているだけなのか、


 世界が急降下しだした。キラリは、一瞬重力から解き放たれ、そして宙に浮く感覚をその身におぼえた。

 チッコイ白ネコさんは、生きていた。その目を一杯に広げて、世界を見ていた。
白の中に紅が見えた。後ろ足の関節が、本来は曲がらない方へと向き、あるはずの肉球の辺りがグシャリと潰れて、中からは細い骨が剥き出しているのが見えた。それでも生きていた。その目はキラリに一時だけ、生の歓びをのような、儚いカタチにもならない、希望を魅せてくれた。
 崩れ落ちるその瞬間、白ネコさんを取り囲んでいた世界が蜃気楼していた。カメラのシャッターをーきった時のあの一瞬のように、世界がプツリと途切れたんだ。

世界から色が剥がれ落ちた。


白ネコさんは、フーッと地に横たわった。目の光はもう消えてしまっていて、その熱が悪い雨と風たちがさっさとさらって行くようで、どうすることもできやしない自分が痛たまらなかった。
 それから、それからそれから、キラリの上に白ネコさんの感覚が乗っかった。
また少し、世界が変化し始めたようだ。白ネコさんの身体で外は見えなくなったけれど、身に伝わる振動と音で。
    
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ。

止まった、また世界の急降下。白ネコさんの身体が持ち上げられ、そして世界が拓いて、同時に全身を雨がうつ。

ガサッ、ガサッ、ザリッ、ジャリッ、……

白ネコさんは地に戻った。
その後で、少し盛り上がった土のその横でキラリは、地からの熱を感じていた。まだ、生きているんだよね、

全てが最期ための讃辞となる
 
キラリはまたヤンワリに包まれた。今度は少し、さっきの土とおんなじ匂いがする、なんだかさっきとはまた異った安らぎだった、生きている感覚が疼(うず)きだした。また少し強くなりだした。
 この手で世界を回してやりたいと思った。今とは異う方向へと、それを感じさせないくらいに早く。

ブォーーーン、ププゥーーー、ビシャーーー

 キラリを包む感覚がその瞬間、少し強くなった。そしてまた、もとヤンワリに戻った。見える世界からは雨粒とはまた別の水滴が降ってきた。それは濁っていた。ジャリッともしていた。それは、泥水のにおいがした。
 続けて、さっきと同じバイブルがキラリの身体に伝わって、キラリはそれを忘れてしまうことにした。


 時計台の針が五時の世界から足早に逃げていく


 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

 いい匂いがしてくるのが分かった。どこか懐かしい。

 タララーララ、タラララララーーー♪

 この気持ちが円くなっていくのが分かった。そのいい匂いと音とが近づくにつれて、さっきまでの心がなんだかソワソワしてきて、少し照れくさくって、
 音といい匂いとに加えて、また赤い光が差し込んできた。さっきとは全然異うやつだ。明るいんだけどヤサシくって、大きいんだけど柔らかさがあって、そしてやっぱり円いんだ。

「へいラーメン二丁お待ちねっ」
「おっ、これこれ、やっぱしこれに限るよなー」
「そうそう、おやっさんの作るラーメンはいつも格別だもんなっ!」
「へい、いつもありがとね、お礼にチャーシュー一枚ずつオマケねっ。あれっ!?いつものことか、ハハッ、ハハハ……」
「アッハハハハハハ……」

 空気まで円くなって、キラリもまるで自分のことのような喜びが込み上げてきた。 


ヒッピー


 少しずつ音といい匂いと円い光とが遠ざかって、またもとの雨音とヒューッというすきま風とヤンワリとが徐々に意識の中へと戻ってきた。

ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ。

世界が止まった。ヤンワリの隙間から見える世界の中に、灰色の太くて長くてそれに、すごく強そうな棒のようなものが見えた。キラリは、そこになにやら紙が貼ってあるのが見えた。

〈生き方についての走り書き〉


a スーツは男の戦闘着、

b 下着は女の交防倶、

※……時給〇△円


「フーン」
「……」
「なかなかイイこと言うじゃん。アンタもそう思うだろ!?」
「……」

 白いセッケンの泡のイイ香りがした

「ねぇアンタ、カサはどうしたんだい?」
「……」
「そっか、アタシも同じなんだ、カサに興味はないよ。」
「……」
「まぁいっか、アタシは今、探しモノしてる、興味があったらついて来な。」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……

ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

キラリは白いセッケンのイイ香りの方へと世界が向かっていくのが分かった。身にうつ外の世界の雨がなんだか心地良いものになった感じがした。

 シャパッ、シャパッ、シャパッ……
 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「ねぇ、アンタの名前はなんていうの?」
「……」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「アタシの名前はサヤ、サツキサヤよ。」
「……」
「ねぇ、アンタどうしてこんな日に外に出てきたんだい?」
「……」
「そっか、アタシも同じなんだ、平日なんかに興味ないんだ。」
「……」
「アタシが探してるモノっていうのはね、その探しモノがなんだったかっていうことなんだ」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「……」
「少し前まではさ、すっごくよく覚えてた気がするんだけど、いつ失ったかもよく覚えてないんだ」
「……」
「この前、ふとガラス戸に映った自分の姿を見たとき、そこで時間が止まった気がしたんだ。」


灼白(しゃくびゃく)の少女


「見えてる世界は前とちっとも変わりはないんだけどただ、眼に色が無くなっちゃったんだ」
「……」
「そのと……」

ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ。

「コーネリアス」

シャパッ。

「エッ!?今なんて!?」
「コーネリアスだ。ボクの名前はコーネリアスだよ。」
「そっか、よしコーネリアス、アタシと一緒に探しモノ探してくれる?」
「わかった。サヤ、サヤ。」
「そう、サヤ♪」

「カーテンは開けるもの?それとも閉めておくもの?」
「ボクは、外を見たい時にだけほんの少し開けてみるよ」


走るオレンジ逃げる白


「悩みが悩みを消すこの世」
「サヤ。この前、近くのスーパーへ食糧の買い出しに出かけたんだ。野菜を二匹捕まえて、果物の景色を楽しんで、タマゴ売り場の前で足を止めた。手ごろな価格のものから手の届かないものまで、どれにしようか選んでたんだ。
「すいませんがー、」声がした。自分から遠く離れた所から声がした気がした。「すいませんがー、そごさあるタマゴ、取ってけねえべがー」白髪で背中も曲がった独りのおばあちゃんだった。「これ、ですか?」「いやいや。その隣さあるの取ってけねえべが」「あっ、これですね、はいどうぞ」「すいません、ありがとうございした」おばあちゃんは、ヨタヨタとした足どりでカートにしがみつくようにその場を去っていった。一瞬、カゴの中身が見えたのを思い出したんだ。そこには赤いリンゴが二つとあとそれと野菜が入っていたと思う。あの時の離れていったおばあちゃんの背中が今でも記憶に強く焼き付いてるんだ。」
「そのおばあちゃん、他に何か言ってなかったの?」
「うん。それだけのことなんだ。ほんの一、二分足らずの場面。今にも途切れそうな生命と、まだこれから先が長いだろうそれとが触れ合った。生命の源を白の中に詰め込んだようなタマゴを仲介として」
「それから、そのおばあちゃんは見かけることはあったの?」
「一度も。あの時、いつもの自分の勝手な感覚で最初に十個入りのタマゴを取って渡そうとしたんだ。けれどもそのおばあちゃんは、すぐに6個入りの方を欲した。独り暮らしとか、寂しさとか、それに、カゴの中にはリンゴと野菜だけだった。なにか、すごくせつない気持ちになった。ボクは、あのおばあちゃんに暴力を振るってしまった。ボクは、そのカゴのままでレジの方へと向かう小さな背中を見ながら、間接的にせよ自分はあの人の人生に関わった、だから、せめて、自分が手渡したあのタマゴを食べ切るまでは生きていてほしいって自然に思えた。あれから、あの場所に立つたびにそのことが身体の中を流れだして、それで辺りを見回す。けれど、あのおばあちゃんを再び見かけたことはまだ無い」
「きっと生きてるよ、大丈夫、コーネリアスもそう思ってんだろ?」
「そうに決まってんだろ」


願わくは、咲かせて魅せよう針の華


シャパッ、シャパッ、シャパッ、
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

「おなか、空いたね」
「空かないよ」

「ねえコーネリアス、引越し屋さんが休日に何してるのかって知ってるかい?」
「んっ!?引越し屋の休日?考えたこともないよ」
「アタシね、前に二週間だけ働いてたことあるからちょっと知ってるのよね」
「サヤが引越し屋!?」
「なによっ、こう見えて結構手際よくテキパキ働けるんだからっ!」
「うん、話して、聞かせて」
「ゴホンッ、引越し屋が一年のうちで一番忙しいのっていつか知ってる?」
「えーっと、多分、みんなの新生活が始まる三月から五月辺りなのかな?」
「正解。んじゃあ、一年のうちで一番暇な日はいつだい?」
「えーっとそのあとは大体平均してそうなんじゃないかな、でもちょくちょくは仕事あるんでしょ?」
「半分当たりかな。でもねコーネリアス、一番暇なのはアタシ達の平日、つまり世間の平日なのよ。世間の人達が汗水たらして必死こいて働いてる時が奴らは一番に暇なの。」
「つまりは、ボク達の平日が引越し屋の休日にあたるってわけだ」
「そうね、でも世間っていうのは意外とそこに気が付いていないもんなのよ。みんなが働いてるから引越し屋が働いてたって別段不思議がらない、ましてや引越し屋に注目して生きている奴なんていないでしょ!?それを逆手にとって、世間の平日に想像できないようなことをしてるんだから」
「たしかに、みんな働いてる日に引っ越す人なんて滅多に見たことないね。でっ、どんなことさ?」
「現金輸送」
「えっ?」
「誘拐」
「えっ!?」
「大麻、ドラッグその他密輸入品の輸送、追跡調査、張り込み、スパイ……」
「エッ!?サヤそれってホントに言ってるの!?」
「ええ、全部本当よ。この他にも腐るほどあるんだから。要はね、都合がいいのよ引越し屋って職業は。あの車の大きさ一つとっても状況に応じて自由に変えられるし、何よりあの外装が世間の信用を勝ち得ているでしょ、それにちょっとくらい同じ場所を行ったりきたりしても停車してても怪しまれないから追跡や張り込みなんかには向くのよね。それにね、荷台にだって荷物だけ乗ってるなんて思わないでね。実際には通信機器や誘拐・監禁道具、追跡道具、最悪の場合、生身の人間が乗ってることだってあるのよ。外から見えるドライバーだけ本物あるいはそれらしく装っておけば、怪しまれることなんてまずないからね。」
「サヤもやったの?」
「ええ、ドライバーをやったわ。今話したことは全部その時に知ったの。まあ二週間だけだったからその先の深い情報は知らないけどね。ただ、アタシが知ってるのがほんの欠片だってことだけは確かなんだ。コーネリアス、よく考えてもみなよ、ただ引っ越し屋やった日給なんてたかが知れたもんだわ。それにね、長年やってる奴らはみんなそうして副業して生きてるの。引越し屋の中で引越し屋をやってるの。中にはドライバーだけじゃなくて実際に作戦を立てるのに参加したり、犯人を直接捕まえるのに一役買う奴らもいるわ。重い荷物を運んでいる中で腕っ節と体力付けてるからね。」
「へえー上手くできてるんだなー、そう言われてみるとなぜだかどこに停まっててもドライバーが車を降りて道をウロウロしたりキョロキョロしてても目的地を探してるように見えるよね」
「そういうこと。その辺の人に見つけたい人間の情報とか住んでる所聞き出すのだっていとも簡単なことなのよ、警察なんかよりもよっぽどね」
「ねえサヤ、あそこに停まってるのって」


己の已


シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「ねえコーネリアス、さっきからずっと大事そうに握ってるそれってなんなの?」

キラリは少しウレシかった

「カギ。みつけたんだ、おちてたのをひろったんだよ」
「でっ、なんでそんなに大事そうにしてるのさ?」
「このカギはさ、きっときっとボクの家のカギに違いないと思ってるんだ」
「……、自分の家、忘れちゃったんだ」
「忘れてしまったのかもしれないな」
「一緒に探してあげるね」
「ありがと」


三色目のクレヨン


「見せてごらん、カギ」
「えっ!?あっ、ああっ」
「ほらいいからさ、アタシ前に引越し屋やってたって言ったでしょ、だからカギ見れば大体どんな感じの建物なのかなんとなくだけど分かるのよね。アパートととか、一軒屋とかさ……」
「なるほど、」
「んー、きっとこれは型と大きさからいって古くて、そんなに大きな建物じゃなさそうね」
「じゃあ、ボクの家はボロのアパートってこと!?」
「かもね」
「サヤ……」
「いこっ」

季節は回り、今年も五月になって鬱の感覚が普段の何倍にも増して激しく疼(うず)きだした。「オレ、去年からずっと五月病なんだ」

「少し座って休もっか?」
「休まないよ」
「ねえコーネリアス……」
「どうしたの?」
「アタシの探しモノって一体なんなんだろうね」
「……」
「そっ、そうだよね、本人さえも分かんないんだもんね、ゴメンネ」
「サヤ、ナニを探したい?」
「えっ!?ナニを、何をかー……」
「ねえサヤ、このカギの鍵穴一緒に見つけよう、それまでゆっくり考えたらいいよ、今は無理しないで」
「そっか、うん分かった、そうしよっ」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャ、ピチャッ、ピチャッ……


水道水売場


「コーネリアス、ちょっと待って」
「どうした?」
「見てごらんよこの看板」
「ス・イ・ド・ウ・ス・イ・ウ・リ・バ ?」

水道水売場

 アイスの中身のような水道水、売ります
 水道水、売ります……
 水道水、売ります……
 水道水…………・……
   ・
   ・
   ・ 
水道水、買って下さい

                     ながぐつ少年

「ねえボク、この看板に書いてあ……キャッ!」

その風貌と看板の文字からサヤとコーネリアスが少年だと思っていたのがサヤと目が合い、ニコッと微笑んだ。サヤは一瞬驚いた後しばらくその場に立ち竦(すく)んでしまった。黄色いレインコートの中から二人を覗き込むようにして現われたその顔には、幾層にも重なった深くクタビレたシワと、それにシミやら垢(あか)やらもうどちらか分からないほどだ。ブッカリとかぶったフードの内側から見える白髪は、レインコートの裾と、それに袖口からも鬱蒼(うっそう)と突き出ている。

「いらっしゃい」

年の性か女性ホルモンのバランスが崩れてしまった性か、いづれにしても男なのか女なのか、あやふやだ。しかし、深く刻まれたシワの奥からは煌々とした光を放つ眼がサヤを捕えて放さない。

「スイドウスイ、ウリマス」
「あのー、「アイスのような」ってどういうことなの?」
「もう過ぎ去った未来のことのようで、よくは覚えてないですよ、スイドウスイ、ウリマス」
「いくらするんですか?それは、どこにあるんですか?」
「後で分かりますよ、スイドウスイ、ウリマス」
「コーネリアス、行こっ、なんか気味悪いよ」
「うっ、うん……」


はないちもんめ


「そのアメ玉と交換しましょうか」
「えっ!?」
「そっちのちっちゃい方のボクの、左のポッケに入ってるやつですよ」
「あっ、ああ……これでいいんですか?他には何も必要じゃないんですよね!?ボク達お金持ってないから……」
「スイドウスイ、ウリマス、アメ玉と交換します」
「どうしようか、サヤ」
「口元が笑ってんじゃんよ、好きにしな」
「スイドウスイ一つ下さいな」
「毎度ありがとうございました」
「氷魚王!?」
「サヤ、先に飲んでくれていいんだよ」
「バカ、女の子に毒味しろっていうの!?コーネリアス、はいっ、」
「はい。……」
「どうなのよ?」
「……」
「コーネリアス?」
「ボクの成分の味がする」
「はっ!?」
「いや違う、本当は自分の成分の味なのかもしれないぞ、すごく強い甘さと、それにすごく強い寂しさと」
「かしてみな、……」
「どう?」
「ウソつかないの、これどこも甘くなんかないじゃないの、むしろすっごく辛くって、のどが熱くなっちゃう、でもどうしてだろう、なんだかその後でオコチャマみたいな味もする、アタシの成分?自分の成分?でもなんだかすぐに忘れちゃう。またすぐそれが欲しくなっちゃうよ」

「スイドウスイ、ウリマス、スイドウスイ、ウリマス、スイドウスイ、ウリマス、スイドウスイ、買って下さい」


いろんな遺伝子が混ざり合い、人形と化す


「おなか、イッパイだね、この水、アタシが持っとくよ」
「うん、ねぇサヤ、ボクから一つ提案なんだけどね、このカギ一度使ってみない?」
「あっ、そうそう、そだったわね。でも、どこで使う?少しは何か覚えてないの?」
「覚えてることが役に立つのかどうか自分じゃ分からないんだけど、それでもいいの?」
「うん、何でもいいからとにかく話してみなよ」
「「東の空を摑(つか)まえた」ずーっと遠い記憶のような気がするんだ。いつも朝になるとね、自分の周りにいる人達がそう言ってた気がするんだ。「ここは世界で一番に太陽が昇るんだって、そう信じて生きる」んだって。それからほらこれ、」
「ん?万歩計!?」
「うん、きっとボクが生まれた時に付けられたんだよ、その証拠にほら、ここに生年月日が入ってるでしょ、これ最近になって気づいたんだよ。しかも見てよ、リストバンド式になっててさ、つなぎ目のところにカギが付いてて手首にロックされてるから外せないんだよまったく、おまけに99999でこれ以上カウントできないから、なんだか切ないんだ。一体何歩歩いたんだろう……」
「東の空を摑まえた、カウントされない万歩計か……」
「あっ、なんだか本当にゴメンね、全然関係ないよね」
「いや、そんなことないよ東、東に行こう、ここからずっと東に歩いていこうよ、東の空を摑まえてやろうゼッ!」
「そうだ、東の空を摑まえてやれっ!」


たぬきボウシ


「古い建物だったよね、それに小さくて」
「うん、古い建物って言うのは間違いないんだけどね、実は大きさまではアタシじゃ分からないのよゴメンね」
「まあ、それぐらいのほうが見つけがいがあるよね、ねぇサヤ、これから歩いていく中でおそれらしい建物見つけたら、一軒一軒尋ねてみない?」
「ねぇーコーネリアス、アンタそれってかなりの根気と体力使うと思うんだけど大丈夫なの!?」
「もちろん、だってサヤと一緒だから♪」
「こいつ、いつの間にイイ子だ」


願望鏡で屋上からこの空を見下す


「ねぇ、コーネリアス、コーネリアスの眼にアタシってどう映ってるの?」
「眼のことかい?」
「……、うん」
「ボクはゼンゼン気にしちゃいないよそれに、今までと何の変わりもなく世界が見えてるんだろ?心配しなくていいよ」
「……」
「サヤ?」
「ゴメンネ、実はそれもウソなの」
「えっ!?」
「実はねアタシ、眼に映る世界が全て輪郭でしか見ないの。雲、人、この水道水の容器、それに自分の視界に映ってるこの自分の腕、そしてコーネリアス……」
「色はどう見えてるんだい?」
「ナニを見てもどこを見ても全部白い輪郭線、それに日に日にその線がだんだん弱弱しくなっていってる気がするんだ」
「……、ハアー羨ましい」
「エッ?どうしてよ!?」
「サヤ、ボクはね、この世界で生きている中で自分のこの眼に入ってきて欲しくないものが沢山あるんだ。闇、汚れ、自殺他殺、それに腐った大人ども、サヤが羨ましくてしかたないよ。」
「そんな、」
「だって気にしたくないモノを自然とそうできてるんだろ!?ボクだったらどれだけ気持ちが楽に軽くなるんだろうって思うんだ」
「悲しすぎるよ、コーネリアス」

サヤはコーネリアスをそっと包み込んだ。
キラリの視界は真っ暗になり、僅かに開いたヤンワリの隙間から、シャパッと一粒の水滴が降ってきた。それは、なんだかすごくアタタカで、ヤサシくてヤワラカで、忙しかったキラリの心から全てを忘れさせてくれた。
そのすぐ後にまた一滴、ピチャッと水滴が降ってきた。それはすごくヒエテいて、ツキササッテくるようで、キラリは少し寂しくもなった。そしてその二つの水滴が入り混じって降ってきてキラリの身体に当たると、キラリは自分の身体が少しずつ熱くなっていく気がした。

「友達なんかいらない、知り合いなんか一人もいらないんだ、ただ、人生でたった一人だけの仲間がほしい」
「うん、うん、アタシがなってあげるよ、コーネリアスのたった一人だけの仲間にさ」

シャピッ、シャピッ、シャピッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「キキョウさん、ツユクサさん、レンゲソウさん……ねぇコーネアス、アンタの本名なんだったっけ?」
「ボク、コーネリアスだよ」
「そうだよね、そのカギ試してみたい建物ある?」
「うーん、そうだね、あれ、見てあの青い屋根の、ほら、なんだか周りのに比べて少し古そうじゃない?」
「そうね、とにかくガンガンあたってみるか!」

シャピッ、シャピッ、シャピッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

 その建物の敷地に一歩足を踏み入れると、二人は空間の歪みに迷い込んだような感覚だ。瓦屋根に防空壕の跡、開けっぴろげられたトビラの内側にはギラギラシャンデリアが顔をのぞかせ、気付けば大中小の犬小屋が家の周りをグルグルと取り囲み、傾いた表札には暴れたような「キメイセル」の五文字が刻まれている。

「サヤ、ボク野良犬って初めて見たよ」
「アタシは前に一度だけ。でも、こんなにたくさんは初めて、とてもじゃないけど数え切れない」
「サヤ、どうしよっか」
「イコーゼ、前へ」

野良犬たちは、二人に道を作るかのようによける、というより、そこへ導くように道を作っているようにも見えた。

「サヤ、なんだか不思議な感じだね」
「そっ?」
「それじゃ一軒目試してみるね、よいしょっと」
「……」

キラリはどこか身体がくすぐったい感じがした。ウレシさ、コワさ、不安、それら全てが擦れ合って、なんだかムズムズした

「だめだサヤ、入りもしないや」
「どれ貸してごらん、……、エイッ、コノッ!」
「アッ、アー、だめだよそんな無理矢理やっちゃ、カギが壊れちゃうよ」
「ゴメンッ、つい本気出しちゃって」
「次行こうか」
「そうだね、でもその前にここ本当不思議なところだね。さっきの犬といい不自然なシャンデリアといい、それにほら見てごらんコーネリアス、この建物上の階行くにしたがって部屋が大きくなってるの」
「あっ本当だ、一階より二階、二階よりも三階の方が大きい。なんだかこの建物自体が地球に突き刺さってるみたいに見えるね」
「これってホントに一階なのかな?」

サヤとコーネリアスは野良犬たちの道をくぐり抜けて、その場を後にした。その時、サヤの後ろを歩いていたコーネリアスだけが、「カチャンッ」と小さくトビラの閉まる音がした気がして、フッと振り返った。すると、「キメイセル」の五文字が刻まれ、さっきまでは傾いていたあの表札が、真っ直ぐに正面を向いているような気がした。キラリは、なんだかワクワクしていた、生きている感覚を久しぶりに肌で味わえたから。


「クイズ 天気予報」全問正解で明日から君も世界の支配者


シャピッ、シャピッ、シャピッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「気にしてる?」
「これからでしょ」
「そう、これからこれから、うーーーーーん……」
「どうした?」
「万歩計見せて」
「えっ?、あー、はいっ」
「エイッ」
「あっ、ちょっと!あーゼロになっちゃったじゃない!」
「これからこれから♪」
「サヤらしいっか」

また少し歩くと二人の視界の先に、強い紫色の傘とヒョウ柄のそれとが現われた。傘の性で顔は見えないが、おそらく服装から主婦と推定

「最近、主人の様子がなんだかおかしいんです」
「己に対してSでありМであれ」
「棺桶買ってきたんです」
「ゲイシャリング」
「それも透明の」
「働き者、働き者、はぁー」
「「今日はお前の誕生日だろ」って」
「もう一つの糸口」
「その晩主人が寝静まった後、私コッソリその中に主人を入れてみたんです」
「疑念」
「四年前のその日から主人、ずっと起きてくれなくて……」
「I wish  I wish 葬人」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「ねぇコーネアス、」
「なんだい?」
「オモシロイ話して」
「まかして。ある朝生まれたボクは、突然目の前の階段を見失ったんだ。気づくと見知らぬ外国人の男が一人、ボクの方をじっと見ていた。そいつとは物心が付くまでの付き合いだった気がする。奴から一つだけ教わったことがあるんだ、それは、「落下エッグ」」
「落下エッグ!?」
「そう「落下エッグ」朝一番に起きて、いつも同じ建物の屋上に冷蔵庫からコッソリタマゴを一つ持ち出してそして駆けていった。すごくすごく高かったことを覚えている。ヤサシイ風さんと、キレイな澄んだ音がそこにはいつもたくさんたくさんあったんだ。そこから真下を見下ろして、朝一番にそこを通り過ぎる人あるいはネコさんやイヌさんやトリさんなんかでもいい。とにかく動いているモノが的さ。落下エッグの速度と動いている的のそれとを瞬間的に上手く計算して、よく狙いを付けて、掛け言葉は、「レディー……落下エッグ!!!」」
「ねぇ、ねぇ、どうなった?」
「通算一八〇〇発中一七三発命中、チョークで屋上の床にカウントしたんだよ」
「しとめた獲物は?」
「聞きたい?」
「聞きたいっ!」
「知りたいかい?」
「知りたいよっ!!」
「どうしよっかな」
「コーネリアス」
「はい。しとめた中で一番の大物だったのは、一番出現率が高かった大型バイクかな、にもかかわらず当てたのは僅か五発、それほど奴は強敵だった。あれはきっと80キロ近くで出てたよ、遠くから音がしてから調度32秒37で落とす。「レディー……落下エッグ!!!」五発以上当たらなかったのは奴が徐々に学習し始めたからなんだ、その地点に差し掛かると蛇行したり速度に微妙な変化を付けたりしだした。それから全敗さ」
「じゃあ次に大物は?」
「スズメさんだよ、悪いとは思ったんだよ、ただ一番に現われちゃったから。ゴメンナサイ全部で七発当てたよ。的が小さいしチョコチョコ動き回るから、それはもう至難の業さ。僕は考えたんだ、そして、コーネリアス一世一代の作戦に打って出た。」
「期待するわよ」
「あっ、えーっと、あのー、あのね、前の晩にその地点に食パンをちぎって撒いといただけなんだけどね。次の日の朝、案の定そこでみんなでチュンチュンしてたからそこを狙わせてもらったよ、ゴメンナサイスズメさん」
「それでもたった七発?」
「うん、スズメさんも学習して来たらしく、前の日の晩に撒いておいた食パンが翌朝にはすっかり無くなってたよ」
「あらら、でもスズメさんかわいそう。でっ、一番に印象に残ってるのはなんなの?」
「あの二人かな」
「あの二人って?」
「二人はその朝ほぼ同時に現われたんだ。制服を着たカップルだったと思う。離れていたから聞こえなかったんだけどね、女の子の方が一言何か呟(つぶや)いた後で、男の子の方がそれにチョコンとうなずいてそのままキッス」
「そして、そして、「レディー……落下エッグ!?」」
「うん、それでね、ボクはなんだかもうどうでもよくなってさ仰向けになって大の字になって青い空に浮かんだデッカイ太陽さんに「オハヨッ」って一言言った後、持っていたタマゴを顔の上に持ってきて腕を一杯に突き出してキラキラのそれに重ね合わせて、「キミたちに幸あれ、レディー……落下エッグ」」
「そしてっ!そしてどうなった!?」
「話はそこまで」
「えーなんでよー、その先を聞かせなさいよー」
「ねぇサヤ、」
「なによ、」
「気がついてた?ボク、ボク……ねぇサヤッ、ボク想い出せてたんだよっ!!」
「誰のおかげ?」
「さぁーーーね」
「……」
「ありがとう、サヤちゃん」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……


炭酸声


「ねぇサヤ、今度はサヤが選んでよ建物」
「うーん、そうだねー、もしもさっきのコーネリアスの記憶が正しかったなら、そこはビルみたいに高いところと考える」
「そうだね、ものすごく高いところから「落下エッグ!!!」したんだもん」
「そして、屋上からはいつも同じとこ見てたんでしょ?どんなとこだったの?」
「あっ、そっか、今は分からないんだけどね、その建物の向かいに古びたパン屋さんがあって、ボクはいつもそこのアンパンを一つだけ買って食べてた気がする。たしか店の名前は……、えーっと、えっと、あっ、そうそう、「パン屋 灯かり取り」だったかな」
「ステキな名前だね、なんだかアタシも食べたくなっちゃったアンパン♪いかんいかん、そう、じゃあまずは古くてそれに高い建物、そうだなー……、よし、あいつに決めた!あそこに見えるちょっとクスンダオレンジ色の」
「よし、こっからだと大体四、五〇〇メートルくらい先かな、行ってみよう!」


狂った滑車 クルッタカッシャ


「思ったよりも早く着いたね」
「うん、なんだかさっき遠くから見てたよりも新しい感じ、マンションだったんだー」
「でも、パン屋さんないね、残念♭」
「もうなくなくちゃったのかもね。それに、正しい記憶かどうかも分からないしさ」
「表札、見てごらんコーネリアス」
「「ハイム 輪郭ゴッコ」?」
「あら、アタシへの当て付けのつもりなのかしらね」
「気にしなさんな、行こっ」
「でー、何階に住んでたのか覚えてないの?ここ高いくせにエレベーターないし、それにさっきの表札の隅っこに⑮Fって書いてあったよ」
「ボクはね、何回も階段を折り返して登ってた気がするんだ、だから、そんなに上の階じゃないと思うんだけど……」
「まあいい、いずれにせよ全てのカギ穴にトライよ!」
「もちろんさ!」
「じゃあ、一軒目……、だめだ、さっきよりはイイ感じよ♯」

キラリの持っていたワクワクはますます強いものになっていた。その身体が擦り切れてしまってもいいと思えたほどだ。また自分のパートナーに会えるような予感がしていた

「あっ、あのー、すいませんがどちら様でしょうか?そこ、自分の部屋なんですけど、何か用ですか?」
「エッ、アッ、アー、どーもなんか部屋間違えちゃったみたいで、スッ、スイマセンッ!ハハッ、ハハハハハハハハ……行くわよコーネリアスちゃん」
「えっ、あーちょっとサヤッ」
「あー恥ずかしかった」
「そうだよ、よく考えてみたら他人の家だって可能性の方が断然高いんだから」
「ハー、ハー、みっ、見えた?」
「えっ、なにが!?」
「あの学生さんが左手にチャラつかせてたの」
「もしかしてカギ?」
「そうよ、全く、それとは全く型が異ってたみたい」
「なーんかちょっと残念♭」
「そう?屋上まで無駄足くわなくて済んだ分、アタシは良かったと思えるけど」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「輪郭ゴッコ」
「そう輪郭ゴッコ、って、コーネリアス、アンタなんでそれ持ってんのよ!?それに「キメイセル」って、さっきの家の表札じゃないの!」
「なんとなく」
「こまった子だわ♪」


哀愁の旅人


シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「今度はボクの番だね」
「何か考えがありそうじゃん」
「まあね。高い建物を登ってたことは確かなんだ。でもね、そこに住んでたかどうかはよく覚えてないよ。さっきからそこに焦点を当てようとすると、記憶の景色がなんだかボヤケルんだ。痛くなる。でね、逆に高い建物の近くにある古そうなのを狙うってのはどうかなってさ」
「なるほど、まあとにかく今は思いつくこと全て試してみる他ないね」
「よし、じゃああの建物目指そう」
「あれって、あの二つ並んで建ってるやつ。何色なの?」
「右のが赤っぽい色で、左のがタヌキ色っぽいのかな」
シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「ねぇサヤ、ボクって君の目にどう映るの?」
「なんて言ったらいいんだろ、普通の人に伝えるのは難しいんだけど、」
「色、色は?」
「色はー、さっき話した輪郭線だけが白くって、その内側は透明だよ」
「えっ?じゃあボクの服の色とか肌の色とか髪の色、それに……」
「ゴメンネ」
「えっ?あっ、いや、そういう意味じゃなくって……」
「教えて、コーネリアスの服の色、、髪の色、肌の色……」
「うん。服はズボンが薄い水色っぽくて、上着は白だよ。あと、髪はね黒なんだ、肌の色は、普通の人よりかは少し白いのかもね」
「そっか。アタシね、記憶失なっちゃってるでしょ、だからね、自分の着てる服の色とか髪の毛の色、それに自分の肌の色まで忘れちゃった。しかも、輪郭しか見えないから分かることも……」
「服の色はスカートが薄ピンクで真っ白い上着、それにスニーカーもキレイな白に細いピンクのラインが入ってるよ、髪は黒で、それに……」
「それに?」
「肌がスッゴクキレイな白!見たことないくらいのキレイな透き通るような白!」
「ホント?ホントにホント!?」
「どうして?」
「アタシね、自分の色のことが不安だったんだ。自分の着ている服の色、髪の毛の色、肌の色……。自分は世界を知らない、でも世界は自分のことを知っている。それがスッゴク怖くって」
「サヤ……、安心して、ボクが一緒にいるよ」
「コーネリアスの目にアタシはどう映るの?」
「一番の白!……分かりにくいよね?」
「十分だよ、ウレシイのかもしれない」


自分よりも強くなりたい


「笑笑笑 チイサナニンゲンガ ヒトリ、マチノ マンナカニ ポツント タッテイマシタ。ナマエハ シロ。ホンミョウ サクラギシロキ。ホンヲカッタ。ソレハ スキトオルヨウニ マッシロイ ホンダッタ。アレハ、ホン ナンカダッタノダロウカ?イツニナッタラ ソラハ アオク ナルンダロウ?サガシモノ ナンカヲ シテイルウチニ コノジンセイガ モウ オワッチャウジャナイカッテ、ソンナコトヲ カンガエテイルト マタ ツギノアサガ キテ……」
「ねぇ、それ独り言のつもり?」
「笑笑笑 キニシナイデクダサイ」
「あんな大声で叫んでたらイヤでも気になりますよ」
「そうよ、それにアンタ一体何本カサ持てば気がすむの?二、四、六、八……アーーーモーーー」
「笑笑笑 ピエロデスカラ」
「劇団の人ですか?」
「笑笑笑 ピエロノのスガオ、ホラネ、ヤッパリ ピ エ ロッ♪」
「ってかただのオッサンじゃん」
「笑笑笑 オッサン?フン、オッサンニキョウミハナイ」
「サヤ、言いすぎだよ、あの、すいませんがよかったらボク達にそのカサ分けていただけませんか?」
「フーン……、ニュウダン シタイノナラ スナオニ ソウ イエバ イイノニ、モウ テレヤサン♪」
「ってか何よこのオッサン、何がピエロよ、ただのカサ売りのオッサンでしょ」
「サヤ、ダメだよそんなこと言っちゃ、すっ、すいません。ボク達この先まだしばらく歩きそうなんです、そのカサ分けていただけませんか?」
「笑笑笑 ホンントニ ユカイナ ヒトタチダ ソンナニ ヌレテイテ イマサラ カサ?イイデショウ デハイマカラ ワタシガ ダス モンダイニ コタエラレタノナラ コノカサ スキナダケ サシアゲチャウヨッ!」
「お願いします」
「モンダイ、ホオズキノ ハナコトバ……」
「偽りと誤魔化し。よこしな、行くよコーネリアス」
「あっ、待ってよサヤッ!えっと、えっと、その、アリガトウございましたっ!失礼しますっ!」
「笑笑笑 セイカイ」
「あっ、あとー、ピエロのおじさん!持ってるカサ使ってくださいね!」
「悪くはないのかもしれないな。「ピエロのオッサン」も。笑笑笑 レンギョウ」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、……

「まっ、待ってよサヤッ、スゴイ、サヤスゴイよっ!どうして分かったの!?」
「女の子ですから♪」
「笑」
「!?」
「らしくないなって」
「コーネリアス」
「はい。でっ、どうして一本しかもらわなかったの?カサ」
「気に入ったのがこれだけだったから」
「サヤらしい」
「何色?ねぇ、このカサなに色してるの?」
「透明だよ」
「えっ?」
「透明だよ。それに白い楽譜柄」
「ステキッ♪さすがサヤちゃんね♪」
「サヤはスゴイよ 笑笑笑」

キラリの身に当たっていた水滴が、ピタッと治まった。そして、セッケンのイイ香りがさっ
きよりも近くになった

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、……

「アタシね、雨の日って結構好きなの」
「へぇー意外だなー、ボクはてっきりサヤは晴れの日じゃなきゃイヤって言うかと思ってたよ。どうしてさ?」
「この空を見上げてごらん」
「空?何?何があるの?」
「やっぱしアタシにしかって見えてないっか」
「もったいぶってないで教えてよ!」
「アタシ、輪郭でしか世界が見えないでしょ、だからカサに雨粒がパチンッて当たってハジケルのがすごく不思議に見えるの。輪郭だけのカサの内側の透明な部分に、輪郭だけの雨粒が当たってね、そででハジケて輪郭がイッパイになるの。透明な画用紙にね、あまる部の輪郭さん達が二度とない絵を描くの。アタシにだけそれが見えるんだ♪」
「ずるいよサヤばっかし、なんだかボクもその絵見たくなちゃった。きっときっとスッゴクキレイなんだろうな」
「うん、今アタシの眼に見えてる世界の中じゃ一番にキレイなんだから!」


空気のコップで時をすくう


「さあ着いた。こっちが赤いので、こっちがタヌキ色」
「よーし、じゃあこの辺の古そうな建物、片っ端から調べましょっか」
「まずはあれ、ほら赤いののすぐ隣にある、あれ、あれ……!?」
「どうしたのよ?」
「見てよサヤ、あの建物、屋根意外全部ガラス窓でできてるよっ!」
「おまけに中にいる人達二人とも逆立ちしてるじゃないのよ」
「よっ、よし、行ってみよう」
「待って、まだアタシ達気付かれてないみたい。少し様子見てようよ」
「わかったよ」

♂「玉虫たちの生活ぶりしてもうどれくらいになるか?」
♀「裁判にかけてみましょうか?」
♂「それはまずい、それはまずい、それはまずい……」
♀「そうですね、裁判所に行くとなれば服を着ないと」
♂「全く、捕まりに行くようなものだ。今日の飯はなにするつもりだ?」
♀「串揚げです。紋白蝶と土竜とそれにほら、お隣さんとこのハチちゃんも」
♂「串揚げはやっぱり憎しみに限るな。憎しみの味でまた憎しみ出す。もう何回目になるか?」
♀「裁判にかけてみましょうか?」
♂「それはだめだ、それはだめだ、それはだめだ……」
♀「そうでしたわね。あそこは逆立ち禁止でしたものね」
♂「全く、捕まり行くようなものだ。あそこは外が見えないからな」
♀「いいこと思いつきました。ケラケラケラ……」
♂「何だ、一体何が何だ?」
♀「今日の晩のおかず、裁判官どもにしましょうか?裁判官の一本揚げ」
♂「デカイフライパンと、大量の油が必要になるな」
♀「私はアッサリと朱墨で」
♂「俺は鉄粉で辛口に」
♀「行きましょうか」
♂「行こうか」

二人?二匹?家を出る

「何か話してたよね?」
「聞こえるわけないけどさ」
「なんか気味の悪い笑顔だった」
「どうするの?」
「試してみようよ」
「ちがくって、もしもあの家がアンタのだったらの話よ」
「えっ!?どうするって、それは……」
「もちろん速攻裸で逆立ちしてもらうわよ♪」
「サヤッ、真剣に手伝ってよ!」
「ゴメンゴメン」
「(おねがい、開かないで)よいしょっと」
「どう?どうなのよ?」
「(よかったー)残念だ、開かないみたい、よし次行こうっ♪」
「なーんだ残念♭」
「あっ、見てこれ「ケ イ ト ウ」」
「またヘンな表札だ、サヤこれって花言葉?」
「さーね」
「その顔は知ってるでしょ?ねぇ、教えてよっ!」
「そのうちね、さぁっ、次々」
「もー、まーいいやっ、今はとにかくカギ穴探しっ!」
「よしっイイ子だ♪」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、……

「少し休まない?」
「うーん……」
「ほらあそこに雨宿りできそうなところがある」
「少しだけね」

サビレタ街の中の、この異様な佇まいのバスの待合室のトビラをサヤとコーネリアスは気にもせずに開ける

老眼「先客はワシだっ!」
杖「いーやワシの方が先客じゃっ!」
老眼「ワシの方が白髪だからワシが先客だっ!」
杖「いやいやワシの方がよっぽど白髪だから先客に違いないっ!」
老眼・杖「そこの二人、どう思う!?」

サヤとコーネリアス、しばし沈黙

「ねぇおじいさん達、先客になると何かいいことがあるの?」
老眼「もちろんだとも小僧君、先客になるとな、バスの一番前の席にドッカリと腰を下ろせる。これがどういうことかお分かりかね?」
杖「そうだ、一番前でなければバスなどバスではないっ!あそこから見える景色は一段と格別だ。この前もワシがいつものように一番前に乗っていた時、運転手がうっかり猫をひき殺してしまいおった。ワシは客の中で唯一それを知っている人間じゃった。ふぁっ、ふぁっふぁっ……」
老眼「それだけではないぞ、この前などワシが乗っていたバスにバイクが正面衝突してきおってな、運転手は慌てて急ブレーキ、客どもは全員反応が遅れてケガをしおった。だが一番前にいたワシだけは違うぞ、しっかりとこの眼で初めから終わりまでしっかりと見ておったからの。外の客どもより一つもも二つも早く反応して、ケガ一つ無いわい、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……」
杖「他にもあ……」
「トランプしましょ」
「サヤ?」
「トランプで決着よ。勝った方が先客よ。ただしアタシが勝ったらケンカはやめて静かにしてもらうからね、どう?簡単でしょ?」
老眼「ふーむ、ワシはかまわんが。いづれにしろ勝つしな、ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ……」
杖「受けて立とう、だがお譲ちゃんが負けたらどうする?」
「とっとここを出ていってあげましょう、あとはお好きにどうぞ」
老眼「何で勝負するかの、いずれにせよワシが勝つがな、ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ」
「三人いるから互いに一番得意なやつで勝負するってのはどう?一番多く勝った人が勝者。もしも全員一勝ずつだったら延長一回戦てのはどう?」
老眼「では始めるか」

 大貧民、七並べ、ババ抜き、三つ合わせてものの十分足らずで終了

「全勝で勝者サツキサヤ!」
杖「若いのにはかなわんな、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……」
老眼「約束通り静かに待つとするか、ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ……」

 サヤとコーネリアスは待合室の真ん中の席にどっかりと腰を下ろし、変わりばんこに冷たく冷えた「氷魚王」をゴクゴクゴク……

「なにじーっと見てんのよ」
「いやっ、サヤってトランプ強かったんだなーってさ」
「アタシは今までどんな勝負にだって一度も負けたことなんかないんだからね」
「えっ?それってホント!?」
「って言うのは実は ウ ソ、トランプの内側見えるのよね」
「あっ、そっか!そうだよね、やっぱしサヤはスゴイよっ!」
「まっ、悪いことばっかしじゃないんだ♯ねぇコーネリアス」
「ん?」
「勝負しましょっか、トランプ」
「ハハハッ、遠慮しときます」


白のトランプ


しばしの休息をとるサヤとコーネリアス。話題はサヤの忘れモノについてになり、二人の周りを取り囲む空気が逆巻く。キラリはその瞬間、全身が内側から無くなっていくような空虚感を覚えた

「ねぇコーネリアス、覚えてる?」
「なんのこと?」
「探しモノ捜しのこと」
「あーすっかり……」
「やっぱしピンとこないよねー、一体なんだったっけなー」
「やっぱしサヤの目のことと何か関係があるのかな?」
「どうなんだろ、でもね、この眼の異変に気付いた日からなんかそれまでの普通っていうモノ達がスッゴイ速さで変わっていった気がするの」
「どういうこと?」
「うん、アタシこんな雨の強い日にカサもささずに歩いてたでしょ、異変に気付いたあの日からなんだか人間が恐くなって、気付いたらいつも人間じゃないモノ達と会話しようとしてた。人間がいない時に人間がいない所へ行こうとしてた気がするの。だからこんな雨の日にさ……」
「その他には何か大きな変化はあったの?」
「名前」
「名前?」
「アタシの名前はサツキサヤ。サツキササヤの五文字がね、心臓のドクンッ、ドクンッていう鼓動とリンクし合って、頭の中で点いたり消えたりするの。他のことを考えようとすると、鼓動がどんどん早くなって苦しくなって、考えるのを辞めるしかないの」
「じゃあボクもサヤと同じだ、「忘れモノ」自分の家忘れちゃうなんて恥ずかしいことだよね、ましてや他人と一緒になって探すなんて普通じゃ無い話だよね。あっ、ねぇサヤ、さっき言ってた「平日に興味はない」っていうのもその時からなの?」
「あーあれね、いやっ、きっと違うと思う。そのことを考えようとするとね、なんだか心地良いんだ、それになぜだか頭痛も来ないし、なんだろ?懐かしい気もするんだ。平日ってホントつまんなくってキライ!」
「ボクもだよ、どうしてこの星はこうも平日が多いんだろうね?」

 サヤとコーネリアスはションボリしてしまい、しばらく話を切り出せずにいる。すると、コーネリアスの握った手の隙間から、キラリがスベリ落ち

チャリンッ、チャリンッ、チャリンッ……

「あっ」
「あっ」
「ゴメン」
「いいよ、そろそろ行くとしますか」
「そうだね、もう結構休めたもんね」

老眼「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ、お待ちなさいなお若いお二人さん」
「?」
「!?」
杖「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、その荷物じゃ手がふさがってしまうじゃろうに」
「あーこの表札か、言われるとそうかもしれないな」
老眼「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ、遠慮はいらん、このリュック持って行きたまえ」
「でも……」
杖「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、いいんだ、ずっと前から落とし主が帰ってこない寂しいやつさ、きっとお前さんたちの役に立つだろうよ」
「ありがとう」
「あらがとうございました」
「ふぁっ、ふぉっ、ふぁっ、ふぉっ……」

コーネリアスは大切そうに三枚の表札をチッコイリュックにしまって背負ってみた

「あらよく似合ってまちゅねぇーオチビちゃん♪」
「気に入っちゃった、よし、早く次の建物行こうっ!次はタヌキ色のが目標だっ!」
「まっ、待ってよコーネリアスー!ちょっ、ちょっとー、あっ、リュックありがとねおじいさん
たち、じゃーねっ!」


着眼師


シャパッ。
ピチャッ。

「不思議ね」
「だってタヌキさん色だよ」
「それもそうだ」
「壁が毛で覆われてるみたい」
「悪くはないのかもしれないね」
「よし、鍵穴探そう!えーっと、えーっと……」
「えーっとえっと……」

モシャツ、モシャッ、モシャッ
サヤとコーネリアスは、毛で覆われた壁から鍵穴の付いた入り口を探す

「あっ、」
「アッ、」
「半周してぶつかっちゃったね」
「そうみたいだね、おっかしいなーどこにあるんだろうカギ穴」
「さっきに比べてずいぶんと熱心じゃないのよ、興味あるの?」
「まあ、ここなら悪くはないのかもしれないな」モシャツ、モシャッ、

建物と思われるそのテッペン付近の空から、低い唸(うな)りのような音が聞こえた

「サヤ!?」
「いや、ちがう、上の方でしたみたい、見て、」
「あー、」モシャッ、モシャッ、

ウォーーーーーン!!!

「あっ、ここモシャモシャしてごらんよサヤ」
「どれどれ、」モシャッ、モシャッモシャ

ウォッ、ウォーーーーーン!!!

「どうやら生きてるみたいだね」
「そうみたいね」
「よーし」
「せーのっ!」
モシャモシャモシャ……
ウォーーーーーン!!!


咲いた咲いた爆弾咲いた
散った散った身が散った
咲いた咲いた爆弾の花
散った散った人の花


「行っちゃったね」
「もう少しモシャモシャしてたかったな」
「サヤもまだまだ子供だね」
「まぁコーネリアスには敵(かな)わないけどね」
「ふぅー。次、どこ行こっか」
「そうだなー、この辺をもう少し見て回ろっか。何か見つかるかもよ」
「よしっ、歩きながら決めよっか」
「それもそうね」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、……

「ねぇサヤ、オモシロイ話してよ」
「こんな言葉知ってる?
「己の血液をインクとし、
己の指をペンとして
我は一番の作家になった」」
「誰の言葉?有名な人の?」
「サツキサヤ」
「えっ、ホントにサヤがつくったの!?」
「そう、輪郭でしかこの世界が見えなくなって、自分のこの腕も、鏡に映ってるはずの顔も、なんだか全てウソみたいで、ホントは自分が自分じゃないような気がして、それでもこの記憶の探しモノ見つけるまでわって……アタシねその時ポケットの中にあった安全ピンでこの指の先をチクッとやったの」
「サヤ……」
「そしたらね、そこから流れ出てるのがアタシの血液なんだってはっきり分かれたの。射スコシ痛くって、スゴク嬉しかった。アタシがアタシだってことが分かれたの。紅かったから、それがちゃんと紅い色でこの眼に映ってくれたから、アタシはアタシなんだって……涙が出たよ。止血なんきゃしなきゃいいのにって思いながら最後までずっと見てた。なんだか生きてるってことを実感すると自然とそうなるんだね、人ってやつはさ」
「サヤッ!ボク……」
「ウッソッ。ウソでしたー」
「えっ!?どういうことさ?」
「コーネリアスが引っかかるかなーってさ♪実際にはその時ポケットの中にあった安全ピンを手にとって、指先にチクッとする寸前で止めたんだ」
「どっ、どういうこと?えっ!?どうして?どこまでがホントでどこまでが……」
「ヘヘェッ♪ホントハネ、流れ出た血液まで輪郭だったらって一瞬頭を過(よぎ)ったんだ。だってそうでしょ?唯一自分の存在を証明してくれるモノまで輪郭だったらアタシって……」
「それもウソでしょ」
「バレちゃった?」
「口元口元」
「あっ、サヤちゃんとしたことが♭」
「まだまだ子供だね」
「オモシロかったでしょ?」
「サヤが思ってる以上にね」


その時、部屋にあったのがピアノだけだったので


カスミソウ、スモモ、ナズナ……サヤとコーネリアスはそれからいくつものカギ穴を探して回った。しかし、持っていたカギは、そのどれにも当てはまることはなく、時間ばかりがさっさと過ぎ去っていく。雨は相変わらず容赦なくこの世界にうち続け。二人はスコシだけ寒さを感じ出した。それまでキラリの身体に伝わっていた温かみも今となってはどこか寂しく、やっぱりと冷えたものになっていた。キラリは、自分の存在の性でこの身体の形の性で、二人に迷惑をかけているのだと思い込み始めた。熱がなくなった。

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッピ、チャッ、ピチャッ、……

「話しかけてもいい?」
「うん」
「やっぱしやめとく」
「話しかけてもいい?」
「うん」
「サヤの宝物って何?」
「時間、かな。コーネリアスは?」
「時間、だよ。サヤの欲しいモノって何?」
「時間、かな。コーネリアスは?」
「時間、だよ。サヤが今探してるモノって何?」
「時間、かな。コーネリアスは?」
「時間、だよ。」
「時間かー、」
「どうやったら手に入るんだろう?」
「時間て欲しがれば欲しがった分だけ減っていて、」
「追えば追うほどに見えなくなって、」
「後ろを振り返るとスッと消えちゃって、」
「やっと掴んだと思えば実はそれはウソだったりもして、」
「時間て一体なんなんだろう、」
「自由に支配できたらどんなに楽しい人生か、」
「その時に持て余してしまっている時間を、時間がない場面にポンッと放り込むことができたのなら、」
「長生きなんか望んじゃいないさ、ただ、この一日が今の二倍の長さの時間になればどんなに楽しいことだろう、」
「この世界で、たった一つだけ売ってないモノがあるとしたならば、それは時間、」
「時間だけが売られていないのってどうしてなのかな?」
「もしも時間を好き放題に出し入れできたのなら、コーネリアス、アンタならどうする?」
「未来に行って自分がいつ死ぬ人間なのかを確かめる。サヤは?」
「全く同じ」
「それしかないよね」
「この星に生まれた人々は、悲しくもその瞬間から未来へ向かって歩いていると思い込んでしまっている、」
「でも本当はそうじゃない。ボク達は生まれたその瞬間からすでに死へ向かって歩いているんだ」
「どんどんどんどん生の瞬間から離れて行って、」
「人それぞれの生き方があるように、未来や夢があるように思い込んでいるけど、」
「それもホントはウソ。みんな目指しているところは一つ、」
「死。」
「そう、何にもない死。」
「自分がいつ死ぬか分かっていれば、どんなに開けた人生か、」
「今この星に生きている人々が全員、自分がいつ死ぬのか分かって生まれてきたのなら、」
「きっと、もっと世界は明るい、」
「そう、世界はいつも走り続けて、」
「誰一人として明日へ対する恐怖心が無くなって、」
「みんなが笑顔で終っていけるね、」
「走り続けて、やり残したことも何も無くて、」
「いつかそんな世界がこの世界にも来るといいのに」
「この世界が死ぬのはいつなんだろうね」
「あしたこの世界がその死を向かえるのならば」
「ボクラはみんな期を同じくして死んでいけるのに、」


次々とまたその次の次がやってきて


シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……

「さっきより強くなってきたね、雨」
「うん。カサさしててもびしょ濡れだ」
「風が強くて少し寒い気がする」
「やめよっか、カサさすの」
「ダメッ、それだけはダメッ!」
「どうして!?」
「……」
「もう少しさしてよっか、カサ」
「うん」


クラッチクラッチ


「ねぇサヤ、あの時あの場所でボクと出会う前、何をしてたのか覚えてる?」
「うん、相変わらず探しモノ探ししてた」
「どうしてボクなんかを誘ったのさ?」
「探してたから」
「もしも誘ってもついて来なかったら?」
「あれっ、言ってなかったっけな?アタシの趣味ってヒューマンウォッチング、つまりは人間観察なの。もうずっとそうやって生きてきたから、見てれば分かるわ、アンタがついて来る人かそうでない人かもね」
「でっ、いつから見てたの?」
「えーっと、あっ、そう、アンタがランドセルに入ったタバコをじーっと見てた時からずっとよ」
「どうしてその時に誘わなかったのさ?」
「ヒマツブシかな」
「暇つぶし?」
「初めね、アタシはランドセルの中のタバコを見てたアンタじゃなくって、ランドセルの中だけを見てたの。そしたらもう一人自分と同じことしてるヤツがいるのに気付いて、それでサッと隠れてさ、今頃どうしてるんだろうね、あのランドセル」
「どうしてるのかな」
「どうするんだろうね」
「さあ、どうするんだろう」
「ランドセルの中身って大人どもが考えてるようなモノだけなのかな?」
「それじゃつまんないよ」
「アンタもそう思うかい?」
「いつの日か、小さな子供達が大人どもを負かす日が必ずやって来るんだよ」
「その日まで生きてたいな」

僕が本を読み始めたのは、大勢の人々の中で胸を張って背筋をピンと伸ばして、やっと自分独りになれる理由をそこに見つけたからでした。高校二年の時でした。皆さんが本を読み始めた理由はなんですか?今もそれを覚えていますか?

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ……


エレベーターの感覚が欲しくなった


「お腹、すいた」
「うん。飲む?氷魚王」
「いいや」
「今日いつごろ食べたの、ごはん」
「昨日からずっと食べてない、コーネリアスは?」
「ボクは、なんだかいつ食べたかすらもう覚えてないな」
「そっか。どうして人って生きてるだけでお腹がすくんだろう」
「きっと、それが生きるためなんじゃないかな」
「生きるために食べてるの?」
「食べるために生きてるの?」
「ふーん。お腹、すいたね。」
「ボクもだよ」
「アンパン、チョコレート、ハンバーガー……、ゴミばっかし」
「どこか、ごはん食べられるところ探そっか」
「そうね、いずれにしても前へ行かないとね」
「うん」


あの子は寝る時眼を開く


シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャ、ッピチャッ……

「食事処 アンスリウム」
「アンスリウムっか、よし、入ろっ」

いたって普通の定食屋の風景が二人の目の前には広がった

「いらっしゃいませ……」
「あそこに座ろっか」
「そうだね」
「注文はお決まりでしょうか?」
「えっ、早くないですか?見てよサヤッ、このお店、メニューが二つしかないよ」
「「人色の豚」 「豚色の人」 それに値段が「虹色の時価」って書いてある」
「すいません、これって一体どういう料理なんですか?それに、値段て一体いくらくらいするんですか?」
「贖罪は、食材はその瞬間に一番に新鮮なものをこちらでご用意させていただきます。味付けはお客様の自由でございます。どんな味でもご用意できます。お支払いは食べていただいた後のお客様のお気持ちで結構です」
「どうしよっか、サヤ、もう出ようよこんなお店、もっと普通の……」
「普通に興味はない。」
「サヤ!?」
「人色の豚、人色の豚よ、味付けは、ちょっと貸して」
「えっ、あっ、はい」
「これ使って」
「「氷魚王」?ですか?」
「ええそうよ、もし万が一マズかったりでもしたら、こっちが逆にお金もらうからね」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
「ねぇ、どうして「人色の豚」の方選んだのさ?」
「なんとなくよ、コーネリアスは「豚色の人」の方が良かったわけ?」
「いや、別にそういうわけじゃないんだけど……」
「男の子でしょ、黙って食べるのっ!いい!?」
「はい。」

丁度その頃厨房からは、調理中には聞きなれない音が聞こえてきた。銃声、大観衆の拍手と歓声、そうかと思えば子供の泣き声や、寂しげな波音、最後にあのピアノの六小節が聞こえ終わるとすぐに例の料理が運ばれてきた

「お待ちどう様でした。当店一番人気の人色の豚 氷魚王ソースがけになります。ごゆっくりどうぞ、それでは失礼いたします」

テーブルの上にはコップに注がれた氷魚王と、真っ白い皿

「あれっ、」
「あれっ、よね」
「思ってたより小さい」
「そう小さくって」
「小さいって言うよりかは」
「そうなのよ、小さいって言うよりかは」
「無いんだよね、料理が」
「無いように見えるよね」
「でもお皿があるよ」
「もしかして、」

サヤ、恐る恐る皿の上へと箸の先を伸ばす 

スッ、

「やっぱしね。コーネリアス、あるよ、ここに、人色の豚あるよっ!」
「えっ、どれどれ……あっ、なんだか、あれっ!?これでつかめてるのかな?なんだか軽い気がするんだけど、とりあいず口に入れてみよーっと……」
「待ってっ!」
「えっ!?」
「熱いのかもしれない」
「そうだね、危ない危ない、冷まさないと……よしっ、」
「どう?」
「人色の豚、かな?」
「それじゃあ分かんないよ、おいしいの?おいしくないの?はっきりしなよっ!」
「おいしいのかもしれない、サヤも食べてみるといいよ」
「そうね、どれどれ……」
「どうさ?」
「人色の豚、だね」
「やっぱしそうだよね?よかった、そうでしかないもんね」
「なんだか、初めっからアタシの中にあったモノのように懐かしい♯」
「それだけじゃないよ、見たことも無いんだ、ボク達♯」
「実はアタシ、この料理の形見えてるんだ♪」
「えっ!そうだったの?そうなら早く言ってよ、でも、どうしてさ?」
「見えてるってことに今さっき気付いたんだけどね、モノが見えてるってあまりに当たり前の感覚すぎていちいち人には言わないものなのかなってさ、」
「でっ、どんな形してるんだい?」
「えーっと、口で説明するのは難しいんだけど、この中にアタシ達が包まれてるよ」
「サヤッ、一体度いうことなのかさっぱし分かんない」
「まぁ球体っちゃ球体なのかな?それがね、この人色の豚さん、この店中の空間全てに広がっちゃってるのよ、だから、形を伝えるの難しくってね、ねぇ、食べてるっていうか、もしかして本当は食べられてるのってアタシ達の方だったりして」
「やめてよ気味悪いな、これからボク達どうなるの?」
「なんだかもうお腹一杯になったとことだし、出よっか」
「そうだね、あっ、お金、どうしよっか!?」
「サヤちゃんに任せなさい♪すいませーん!お勘定―お願いしまーっす!」
「はい、ありがとうございます、あのーお支払いは?」
「はいこれっ、釣りはいらねぇーよっ♪」
「サヤ、かっこいいぞ♪」
「はいお粗末さまでした。またのご来店を待ちしております。」

「風吹かむ
      わが身に沁(し)みる
 子守歌
     今も昔も
我は我なり

                                                 サヤちゃん著♪」

シャパッ、シャパッ、シャパッ……
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、……

「ねぇサヤ、何渡してきたのさ?」
「気分屋の気まぐれ、かな」
「ごちそう様」
「いえいえ」
「さっきまでの気持ち、覚えてる?」 
「あっ、そういえば、どんなんだったけ?」
「忘れたよ、でもねほら、これだけ忘れずに持ってきたよ♪」
「きっとずっと楽しかったはずさ、イコーゼ、前へ、前へ、イコーゼ!」
「前へっ!」


Call A


「サヤが住んでたのってどんなところ?」
「よく覚えてない。でも、いつも安心の中で暮らしてた気がする」
「サヤには家族がいたの?」
「それもよく覚えてないの。でもねっ、いつだって不安を感じたことは無いよ」
「そっか。きっとサヤは幸せだったんだよ。それが当たり前になっていたのかもね」
「どうした?なんだか元気ないじゃないのよ」
「サヤと出会って今日一日旅をしてきてさ、何か思い出せそうな気がしてるんだ。やっぱしボクの家ってサヤが言ってたみたく古くってボロなのかもしれないな」
「不安?」
「そんなことはない、かな」
「こわい?元の生活に逆戻りしちゃうのが」
「ただ、もう少しこのまま旅をして回るのも悪くはないのかなってさ……」
「甘えたこと言ってんじゃないの、アンタは今、自分の記憶を思い出せそうなのよ、それにそのカギ、これ以上ない手がかりじゃないの、いい、よく想いうかべてごらん、そのカギのカギ穴見つけて、あんたのその手でトビラを開いた瞬間のことを」
「だめだっ、まだ、まだ考えたくないよ、だってきっとそこには……」
「そこには?」
「現実が、普通が、世間がただの日常が待っているだけのような気がしてそれで、」
「ふー。それ言われちゃったらさすがにアタシも説得できないわ。だってアタシも普通なんかに興味ないんだもん」
「……ゴメンネ、なんだか今さら」
「いいよ、かしてみな」
「えっ、あっ、」

キラリを包んでいた世界が変わった。白いセッケンのいい匂いと、ヒンヤリとはしているものの、それでいてどこか安らげるような感覚に、世界は変わった

サヤは、コーネリアスのリュックから氷魚王の入ったペットボトルを。そして握った手の中からカギを取り出した

「……エイッ、」
「あっ!!!」
「これ、アタシが持っとくわ」
「ねぇ、どうしてそんなことするのさっ!」
「なんとなく?かな」

サヤは氷魚王の入ったペットボトルの中にコーネリアスの握っていたカギを沈めてしまった

「これで少しは楽になった?」
「今はまだ分かんないけど、サヤが持ってた方がいいような気がする」
「そっか、よし、じゃあカギ穴探し続けよっか」
「そうだねっ、見つけたらまたその時に考えればいっか」
「おりこうさんだ♪」

その列車の中でつくられた歌たちは、その全てが死刑囚のもとに届けられ、死の瞬間に聴かされるのだそうです。その列車の名は「詐称列車」。いつも乗客はゼロだったそうで、運転手の姿を、見た人もおらず、満月の晩にポッと現われ、その列車が走った跡に道が出来ていくのを見た人がいるとかいないとか……すべてはこんな線路の上だから、道しるべになろう、結局はただそれだけのことだった

ジャパッ、ジャパッ、ジャパッ……
ビチャッ、ビチャッ、ビチャッ……

「雨じゃなくって水塊が降ってるみたい、すっごく重い、こんなの初めて」
「ボクが持つよ、カサ」
「うん」
「あれに入ってみようよ」
「そうだ、あれに入ろう」

 サヤとコーネリアスの眼の前には十階立てほどの灰色の建物。凹凸がなく、一本の四角い柱のようにスラッと天に向かって伸びている

「In Children」
「これはさすがに花言葉じゃないでしょ?」
「そうね、ちょっと残念」
「ん?まあいいや、とにかく入ってみよっか」
「そうしよう」

サヤは氷魚王の入ったペットボトルのキャップを開け、逆さまにして沈んだカギを流し出した

「不思議、いつまでたっても満杯ね。はいっ、カギちゃん」
「よし、やってみるよ、よいしょっと」

……カチャッ

「あれっ!?」
「どうした?抜けなくでもなったか?」
「いやっ、開いちゃった」
「あらホントだ」
「どうしよう」
「どうしよっか」
「とりあいず、中に入ってみよっか」
「それもそうだ♯」

サヤとコーネリアスが一歩部屋の中へと足を踏み入れると、そこには願望鏡で覗いたような世界が広がっていた。部屋の中に飾られている時計は、①~⑥までの文字盤しかない。一時から六時まで経過すると、今度は逆に⑤、④、③、②、①と数字が小さくなりながら進んで行き、永遠に一時から六時までの世界。裸の人間もいれば、上着だけのブタさんなんかもいたりして、バナナが自分で皮をむく……、人々の全身には、無数のコンセント達が当たり前のようにささっていて、どうやら人々はその存在に気付いていないようだ。それをたどって見てみると、また別の人と繋がっていたりして、それらが複雑に絡み合っていて、よっぽどこの世界に占める割合が多いようにも思える。見えないコンセント達。教師らしい人間が、生徒達らしい子達にこう言っている
「出席をとります。もしかして元気な人?うつむき続けて初めて見える世界があります。人生をサボりなさい。今日はその勉強をしましょう。宿題です、あの世を見ての感想文を書いてきなさい。期日は私が生きている間ですよ。それでは今日はここまで」

「サヤ、間違ってるのって本当はボク達の方なのかな?」
「そう願う」
「なんだかここなら飽きない生活がおくれるような気がするよ。サヤは?」
「悪くはないのかもしれないわね、でもね、なんだかコーネリアスがここに住むのはもったいないよ」
「どうしてさ?いいところじゃないか」
「アタシ。コーネリアスには一番に透き通った世界で生活していてほしい。それにね、コーネリアスがここに住み着いちゃったら、アタシ一生コーネリアスのこと見つけられなくなっちゃう気がするよ。コーネリアスがこの世界でのただの住人Aなっちゃうのかなってさ」
「ずいぶんと素直だね、何も言うことが見当たらないよ、ボクはどうしたらいいのかなあ?」
「ついといで」
「はい。」

サヤとコーネリアスはその建物をアッサリと立ち去った。また二人は前と歩いていく

ジャパッ、ジャパッ、ジャパッ……
ビチャッ、ビチャッ、ビチャッ……

「気付いた?」
「うん、何かは分かんないけどね」
「……」
「だって、さっきからウレシそうなんだもんサヤ」
「カギちゃん♪」
「やっぱり、かな」

サヤは再び氷魚王の入ったペットボトルの中にカギを沈め、逆さにしてそれを取り出す

「生きてる」
「どうしてもっと早くに気付けなかったのかな」
「この水の性なのかな」
「ホントはどっちなんだろうね」
「どっちって?楽しくなってきた、のかな?」
「久しぶりに、そうかもしれないね、記憶に興味ある?」
「今はさほどない、かな。輪郭だけの世界行ってどうなのさ?」
「アタシだけに見える世界があってもいいのかもしれないわ」
「いこっか」
「前へ」

キラリはまた少し心に灯かりを取り戻した。もう少しだけ、独りでいる時間がなくなるのならば、この世界で生きてみるのも、こんな生き方をしていることも、それでもいいのかもしれないな、

「あっ!また変わったよ!」
「不思議だね、アタシが一番に気付いたんだかんね!」
「はいはい、さすがサヤちゃん」
「やっぱしこの氷魚王不思議な力があるんだよ」
「うーん……♭そうなのかなあ!?」
「だって、よく見てごらんよ、この中に入れるとカギの形が変わっちゃうんだよ!コイツやっぱしスゴインだよ、それで王様なんだよきっと」
「king of ice-fish ?」
「そう、お魚の大様!氷の」
「生きてるって信じてるんだけどな、カギさん……」
「まあ、いいじゃないの、これでどんな建物にだって入れるんだよ」

それからコーネリアスとサヤは数え切れないほどの建物に入って回った

「何か不満?」
「ねぇサヤ、ボクはどこに帰ったらいいの?」
「……」
「……」
「かしてみな」
「あっ、ちょっと、あっ!あーーーあ」
「これでよしっと、それからこっちもだ、エイッ!」

サヤは氷魚王の入ったペットボトルの中にまたカギを沈めて、力一杯ガンガン振り回したあとで、それに向かって一言何かをつぶやいてチュッ。そして、カギを取り出して、フタを開けたまんま近くを流れていた川へと思いっきり放り投げた。それから、コーネリアスの万歩計をリセットし、二回目のゼロに戻した

「ボクもう何されても驚かないからね」
「これでこのカギちゃんもう変わらないんだよね」
「それもそうだ、なんだかステキなことなのかもしれないね」
「だってまだ、この世界が今日なんだもんね」
「サヤ」
「ん?」
「この雨が晴れたら、君にチューリップでもあげようかな」
「まってるよ」


東の空を摑まえた
Countless Moon are Rising.

*紫苑〈シオン〉……追憶、君を忘れない
*サツキ……節制
*キメイセル……?
*ツユクサ……なつかしい関係
*レンゲソウ……わたしの苦しみをやわらげる
*ホオズキ……偽り、ごまかし
*ケイトウ……おしゃれ、博愛、奇妙、気どり屋、色あせぬ恋
*アンスリウム……煩悩、赤(情熱)、白(熱心)


製作期間    二〇〇六/六/十一(日)~二〇〇六/七/十二(水)
編集完了日  二〇〇六/七/十三(木)


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