« 白の旋律〈白の光〉~旋律№5「トス」~現実世界&裏world~~ | トップページ | 白の旋律〈白の詩〉~旋律№7  ぼくが俺と誓った日~ »

白の旋律〈白の光〉~旋律№6 タイトルa~

〈白の出会い〉

旋律№6 タイトルa
                                白
 

快晴の空を、真っ白い飛行機が一機だけ飛んでいました。その後には一本の白い飛行機雲。窓側の席だった僕は、その光景を左から右へと目で追っていました。
 しばらくして、その飛行機が視界から消えようとしたその時、僕の冴えない気分を一瞬で連れ去る衝撃的な出来事が起こったのです。
 飛行機雲を中心線として、それより下の空がはがれ落ちてしまったのです。例えて言うのなら、飛行機がハサミで空が画用紙。その空画用紙を飛行機バサミが真っ二つに切断してしまったのでした。数学なんかやってる場合じゃない、今すぐ行かなきゃ、はがれ落ちたあの空を僕が拾いに行くんだ!
 そう決めた時、僕は教室のドアを過去の光景と化し、呼び止める先生の声もまた、過去のノイズとして振り切っていたのでした。
 三階から二階へとそして一階へと会談を全速力で駆け下りた。時間にしてみれば、三階から一気に一階へと飛び降りたのと同じくらい早かったといえよう。回転している自分の足があまりに速かったので、自分のそれである感覚がほとんどなくなっていた。
 スニーカーに履き替え、いざ外にダッシュしようと体を反転させた瞬間、目にこびりついたのは、泥水を沸騰させたような色、赤サビを焦がしたような色、無数のカエルさんたちを一遍に地面に叩きつけたときに飛び散るあの内臓の破片と微妙に原形を残した死体。その他想像できるありとあらゆる汚い色、残酷な絵が下半分の空にありありと広がっていた。よりによって上半分の空が真っ青な晴天だけに下半分の空の醜さをより一層際立たせる結果となっている。アーメン。
 靴を履き替えたまでは良かったが、次に何をすればよいかなど、高校一年の僕の頭では毛頭考えられるはずもなく、他じっとあの飛行機を見つめていた。
 時間が経てば経つほど飛行機雲は長さを増し、おまけに消えない。長さを増せば増すほど空は切り取られ、下半分の空の面積は増える一方だ。焦りを隠せなかった。「チック、チック、チック」時計の秒針の音が手に取るように喚起され、平静を忘れ、自分で自分を追い詰めていた。
「あの飛行機の前進を阻むのが先か?」
「僕に扱うことが出来るのか?あれより早い乗り物を」
「あの飛行機が着陸するのを待って、それから考えるのか?」
「だめだ。時間がなさすぎる。それに空を飛ぶもの、どこに停まるのかなんて推測できっこないし、それにどうやって追うんだ?」
「いっそのことあの飛行機をぶっ壊すか?」
「それもだめだ。仮に壊せたとしても、あの飛行機雲は消えない……。」
「……消えない!?」そうかそれだっ!ずっとあの飛行機雲を飛行機の飛んでいる方向と逆に追っていけば、時間的制限、速度的規制をかなりの確率で受けずにすむ。目指すは飛行機の止まるゴールじゃない、あいつのスタートし始めたその地点だっ!
家に帰った僕は、必要なものを目に止まる順にバックの中へ次から次へと詰め込んでいった。その中身はざっと以下の通りである。

 それから台所へと降りて行き、戸棚をゴソゴソとあさって、カップ麺三つとお菓子を少々。それに朝食の残りの焼きそばをタッパに詰め替えてかばんに入れた。
 ふいに部屋の中をぐるりと見渡すとなぜだか少し寂しくなった。いつも見慣れていてそれ故にしっかりとは目に焼き付けていなかった風景。この時、とても懐かしい気持ちになったのは偶然でも、気のせいなんかでもない。この日を境にここには二度と戻ってこられない、そんな気がしてね。そんなことはないだろうけどね。でもね、さっきかばんに入れておいたあのカメラでこっそり一枚写真を撮っておいた。残りは六枚か。さあ出発だ!必ず僕が取り戻す、あの空を、我が青き胸に。
 家を出た僕は、鶏あいず飛行機雲を逆方向に追跡することにしてひたすら歩いた。歩いても歩いても一向に飛行機雲の切れ目は見えてこない。嫌気が差し、棒は思い切った決断に出た。「ヒッチハイク」。そう、少年なら誰しも一度は憧れるものだ。
 車道にギリギリまで近づき、うつむいて目を閉じ、ゴックンとのどを鳴らしてから一回深く深呼吸。その後ゆっくりと顔と左腕を同時に上げ始める。左腕をてっぺんまで突き上げる。「決まったゼ」心のなかで静かにそう呟き、口元に笑みを浮かべながらそっと目を開ける。
 すると、僕の目の前には既に一台の白いスポーツカーが止まっているだはないか!見れば運転手は二十歳か二十二、三の若い女。茶色に染めた肩までの髪と真っ白い肌、それに黒のタンクトップが抜群の色気を解き放っている。ずいぶん前から僕を見ていたような目でこっちをじっと見ている。
「あのっ!もしよろし」
 「いいわ。乗せていってあげる。っで、どこまで行きたいの?ヒマしてるから付き合ってあげるわよ」。と、僕が用件を話す前からこちらの考えていることを全て見通しているような、そんな雰囲気で話し出す。―――桜色の唇に僕の心は釘付けだった。
 「アタシの名前は『アンナ』アンタは?」
「ぼくの名前は『タカヒロ』です」 
「っで、どこまで行きたいのよアンタは?」
「行きたい所はまだ分からないんです。あの飛行機雲の始まりに向かって進もう
していたんです」
「はぁっ!?それどういうこと?最初からはなしてもらわないと、こっちとしても分んないよ」
――――、十五分くらいかけて事のあらすじを彼女に伝えた。
「へぇーアンタも変わった子だわねぇー。でもアンナもちょっとそれに興味持っちゃったから一緒に行ってもいいわよ」と笑顔で答える。とり合図これで交通手段の問題は解決されたわけだ。
 まあ、長くなるであろう旅を共にする仲なわけだから、多少は互いのことを知り合う必要があるな。僕は彼女にいろいろと質問してみた。僕の中での彼女のプロフィールはだいたい以下のようなものだ。

 僕が質問を終えると、今度は彼女が話し始めた。
「毎日毎日、客の髪切って、つまんない話にああいづち打って。結局形として残るものがないのよね。なんかそんな毎日がむなしくなってさ、それでなんかオモシロいことないかなぁーってドライブしてたらアンタを見つけたってわけよ。滅多にないもんね、はがれ落ちちゃった空を拾いに行くなんてことわさ」
 僕自身、彼女がパートナーになってくれて案外心強かった。それに、ありきたりな毎日に嫌気が差した者同志、仲間意識も芽生えたしね。
 それからしばらく、飛行機雲を追いかけ続けた。会話もはずみ、世界が危機に陥っていることをほんのわずかな時間だったが忘れることが出来た。結局、この日は一日中走り続けたが目的地には辿り着けずに終わった。あいにく僕たち二人の所持金は合計しても三千七百円そこらしかなかったのでこの日の夜は野宿した。
星がキレイな夜だった。虫さんたちのキーンと高い合唱が当たり一面に響き渡り、その音色をヒンヤリと冷たい風が遠くへ遠くへと運んでいく。
 「キレイな空ね」
「うん、そうだね」
「アンナ、こんなにキレイな空見たの何年ぶりかしらねぇ。これもアンタに出会えたからかもね。サンキュッ」
「ぼく、カメラ持ってきたから良かったら写真撮りませんか?」
「それイイねっ。それじゃ星空をバックにハイチーズ!」
―――― このとき僕の胸は熱くほてっていた。彼女とぴったりとくっついていたし、何しろ高一の少年にとって二十一歳の女性のタンクトップ姿はあまりにも刺激が強すぎた。そして僕は持参した寝袋で、彼女は車の中で寝ることにした。
彼女が寝たのを見計らい、僕はこっそりと彼女の寝顔をカメラにおさめた。暗闇にうっすらと光るあの飛行機雲をバックにね。残りの写真はあと四枚。今日は疲れ
たからもう寝よう。

 バタンッ。アンナが車のドアを閉める音で目を覚ました僕は、眠気まなこをこすりながら彼女の方へ目をやる。彼女は朝日の向かって立ち、天に向かって大きく伸びの運動をしている。アンナの体に光が当たり、体の線がくっきりと浮かび上がる。体からこぼれた光が目に差し込んできて実に美しい、改めて彼女の美しさに引きつけられた。
 朝食はというと、家を出る時に持ってきた焼きそばを二人で分けながら食べた。
「ねぇ、今日はどうしよっか」
「あっ、そうそう、ぼく方位磁石持ってきたんだ。あの飛行機雲、西に向かって進んでるみたいだ。」
「じゃあ、とり合図方位磁石便りに追いかけてみますかっ!」
 するとアンナは、あぐらをかいたままの姿勢でバサッと髪を後ろにはらい、左手首につけていた白いヘアゴムで髪を一つに縛る。しっとりと染まった薄い茶の髪に白いリングが良く生える。
 僕も急いで車に乗り、出発。車は西に向かってひたすら走る。東から昇る太陽から逃げるように西へと逃げる飛行機を追う。しばらく走り続けているうちにアンナが僕にこんな質問をした。
「ねぇ、仮にあの飛行機に追いついたとして、その後はどうするの?」
さすがに大人だけあって、現実的な質問をしてくる。しかし、ここで何の根拠も無く納得すらさせることも出来ない返答をしたのでは、車を停められるかもしれないし、そしたらここでアンナとも別れなければなくなる。僕は頭の中の従業員さんたちをフル動員させて話し合わせた。その結果……
「まずは、パイロットの顔をカメラに収めてそれから空の復元方法を尋ねるんだ。そして、元通りになった空をバックにまた写真を撮ろうよ」完璧だ!僕は思いのほか感情を上手く言葉に変換できて、なおかつ自分にしては「よくやった!」と思った。
 「それまでフィルム、無駄遣いするんじゃないわよ」アンナはそう言うと銀色に光るサングラスをかけ、アクセルを強く踏んだ。
 休まずに百キロ近いスピードで一時間近く走り続けたせいか、気がつくとあの飛行機の形がはっきりと肉眼で確認できるくらいにまで接近していた。
 「少し休もうよ」僕はアンナに声をかけた。運転はしたことが無いからその疲労の度合いは検討もつかないが、顔の表情が固まっている彼女を見てそれは察することができた。
「いいわっ、少し休もっか」
 近くの自動販売機で缶ジュースを二本勝って持ってきたスナック菓子を食べながら、今度は僕が話しかけてみる。
「ねぇ、休みはいつまでなの?仕事に戻らなくて平気なの?」
「まだあと一週間あるのよ。だから平気。アンタは学校に戻らなくていいの?いきなり飛び出してきちゃったんでしょっ!?」
「今は戻りたくない。アンナといたら学校のことなんかすっかり忘れてた。そのことは飛行機掴まえてから考えることにするよ」
「そっかぁ。それもいいかっもねっ。あーぁ、でもせめて、あの飛行機のパイロットの顔だけでも分かればねぇー。」
僕は思いついたようにかばんに手を伸ばし、「ジャジャーン」というかんじで双眼鏡
を取り出してやった。そして、飛行機にピントを合わせた。飛行機雲を徐々に辿って操縦席の方へ視界を移していく。一瞬行き過ぎて、サッともう一度素早く戻してみる。
……「いないっ!」僕は小声で呟いた。
「えっ?」アンナはジュースを飲みながら、幸いにも聞き取れていないようだった。
 操縦レバーを見ると、左右に自動で動いている。まるで二本の彼らが互いに意思を持っているかのごとく。僕は緊張と真実を隠すような口調で
「ヘルメットにゴーグルしてるからどんな顔してるかよくは分かんないけど、体は小柄で年はまだそんなにいってないってかんじかな」と、ごまかした。
「へぇーそうなんだぁー、早く実際に会ってみたいよねぇ」そうアンナは言うと、車へと歩いていった。
 この時、彼女に双眼鏡を貸してほしいと言われなかったのは、本当に奇跡的なことだったと今でもそう思える。それに、双眼鏡をかぶせていたことで僕の目に映る緊張を隠せたので実に助かった。何で真実を彼女に言わなかったのか?って?それは、
「彼女に余計なことを考えて欲しくなかったし、彼女が真実を知ったのなら一緒にいられる時間が減ると思ったんだ。アンナは一直線な正確だから、すぐに問題を解決しようとするだろうからね。僕はアンナに恋をしてしまっていたんだ。」
 それから更に車を飛ばして、飛行金真下にもぐりこむことが出来た。いよいよ掴まえることが出来る。そんな思いを二人で噛み締めている頃には、とっくに日が落ちていた。
 アンナは運転席を少し倒し、頭の後ろで手を組みながら、ホシ空なのかヒコウキ雲なのか、いずれにせよ夜空を見上げている。
「私達、またもとの他人同士になるのよね?」アンナの声色は僕が彼女と出会ってから聞いたことがないくらい物悲しげでした。
「えっ?」
「だって、事件が片付いたらまたもとの環境でタカヒロは高校生、アンナは美容師。なんかまた現実に戻っちゃうのかなぁーって思ってさ」
「ボクも同じこと考えてたんだ。実際、明日には飛行機掴まえられそうな気がするし、この事件が幕を閉じるのも時間の問題だろうしね。でもねっ、その先のことはまだわかんないや」
 その後、何分か二人の間には白い時間が流れたんだけど、嫌な沈黙とは異っていて全然心地良かったんだ。だからかもね、二人がその沈黙をすぐには破ろうとはしなかったのはさ。
 翌朝、僕が持ってきた水筒のお茶と、残りのカップラーメン一つを分け合って食べた。
「そのカバン、他には何が入っているの?」
「えーっと、……」一瞬僕ハッとした。持ってきた替えの下着を見られてしまった。正直恥ずかしかった。彼女はチャカスように僕をつついた後、
「そのウォークマン聞きながら行こうよっ♪」彼女は車のMD コンポにディスクを入れ換えるなり、大音量にしてクラッチを切った。
「ねぇ、これ大音量で聞くタイプの曲じゃないんだけど……」僕が話しかけると、
「♪ ♪ ♪」……聞こえていないらしい。まあ、たまにはこんな聞き方も良いのかもね「♪ ♪ ♪」
「ねぇ、ちょっと聞いているの?ねぇ、ねぇってば!」
「えっ!?なにっ?」
「何じゃないわよもー。こっちがさっきから話しかけてるんじゃないよー。」
僕はコンポの中で彼らが奏でる音色にすっかり我を忘れさせられていた。
「そろそろあの飛行機も見えてきたことだし、大体どの辺り目指してるのか分かってもいいんじゃない?」
「そうだなー、でも出発してからかなり走ってるし僕の見たことない風景ばかりだかりだから先に何があるかいまいち何があるか分かんないよ。」
 アンナはハンドルから右手を離し、ドアに付いてる収納ポケットから地図を取り出して見せた。右手から反対の手に素早く地図を持ち変え、僕に渡すと、得意そうに、
「アンナも少しは役に立つでしょ?ドライブ好きだけど、方向オンチだからそれがないとだめなのよね。(ウフッ)」僕はアンナに向かって無言で左手の親指を立てて、軽く微笑んで見せた。
 さっそく地図を広げ、方位磁石と出発地点を重ねながら慎重に指で辿る。どうやら僕らは八十キロ近く走っていたことが分かったし、この先には栄えた街とか土地があるわけでもなく、森がありその中に一つの工場があることが分かった。しかし、地図上の情報なので、その工場の大きさまでは分からない。
 その概要をアンナに伝えると、少し顔色の明度のが落ちたように見えたのは僕の考えすぎだったのかもしれない。やはり、終幕が降りることに彼女は少し抵抗を感じているらしい。
 さっと地図を素早くたたみ、僕は彼女の顔色を伺いながら「空」について話すことにした。
「あの空。本当に元に戻るのかなぁ?飛行機のパイロットを捕まえたとしてももしかしたらもう戻らないかもしれない。僕らがいつも見ている青い空は、表紙でしかなかったんだね。よりによって中身はひどく汚れてるしさ。でも、それが空の真実の姿だとしたら元に戻すことを少し疑っちゃうよね。偽ることが真実だなんてやっぱりおかしいよ」―――― アンナは先ほどよりも少し強くアクセルを踏んだ。そんなふうに僕には見えた。
 周りの風景に木や花が増えだし、僕らは森の中へと入った。工場らしきものが少しチラついて見えてきた頃、飛行機も徐々に低空飛行をし始めた。
 古ぼけた案内標識に「この先廃棄工場あり」文字みるみるうちに僕らと飛行機との距離が縮まっていくのが少し怖いくらいだった。
 やっと工場についた僕らは車から降りて中へと進もうとする。僕は怖がる感情を胸にギュッと押し込んで、アンナよりも先に歩いて男らしい姿を見せようとした。
 僕が最初の一歩を踏み出そうとしたとき、後ろから肩を包むやさしい感触。それは温かくて僕の縮こまったつまらない気持ちをスーッと開放してくれたんだ。肩の力がフッと抜け、僕の頬とアンナのそれは一つになっていた。
「ねぇ、写真撮ろうよ。」
 ――――そして、撮った写真は僕の後ろのアンナがいて、僕に寄りかかるようにその顔が僕のそれのすぐ近くにあった。アンナは僕にしっかりとしがみついて、その小さな顔に涙とそして、一生懸命な笑みを浮かべていた。それから僕らは自然と手をつないでいて同じ歩幅で歩いていた。
 この工場は二階建てで、その上に屋上があってどうやらそこに飛行機が着陸できるらしい。ホコリまみれで所々サビついたこの建物の見取り図に記されていた。
 最初の階段に向かう途中、目に付いたのは飛行機の部品と思われる羽やエンジン、それに窓や操縦レバー。どれもかなり古いものらしく、壊れたものがその大半を占めていた。
 一段ずつしっかりと階段を踏みしめながら二階へと着いた。どうやらこのフロアは、機会のパーツの収納室だったらしい。割と新しくて、使えそうなものや、その他にもパイロットのウェアやヘルメット、ゴーグルなどもあった。僕は何を想ったか、その中で一番にキレイそうなヘルメットとゴーグルを装着してみた。アンナはそれを見て、クスッと笑い、彼女もゴーグルを首にかけた。
 そして、僕らは手を強く握り合い屋上への一歩を踏み出した。すると、そこにはあの汚い空が僕らの頭に喰らいつかんばかりに間近に感じられた。
 辺りを見回すと、何機かのサビついた飛行機さんたちが腰を休めている。くたびれているらしい。でもすぐに奴を見つけることが出来た。
 先ほど着陸したせいかかすかなエンジン音とプロペラが徐々に速度を落としながら回転していた。僕は、もしアンナがこの飛行機にはパイロットいないことを知ったら、どんな顔をするのだろう、そしてなんて言葉をかけてあげたらたら良いのかと少し困った。
 アンナは僕の手を引くように飛行機の停まっている場所へと向かった。
「ねぇ、パイロットどんな顔してるのかなぁ?もし弱そうな奴だったら二人でボッコボッコにして写真撮ろうよ!そしたらアンナたちが世界を救ったことの証になるもんねっ!」
「そうだね……。」
「えーっとパイロットの奴、降りてどっかに行っちゃったのかなぁ?飛行機のなか見たんだけど、いないのよねぇー。おっかしいなぁー。」
「ねぇ、さっきからずっと考えてたんだけどさぁ、」
「うん」(アンナはこちらを見ずに適当な返事を返す)
「僕らでこの飛行機に乗って、辿ってきた道もどってみたら空が元に戻るんじゃないかって考えてみたんだ」
「へぇー、アンタも実は頭のイイ子なのかもね。アンナはパイロットを殴ることしか考えてなかったのよねぇー」
「ほら、飛行機が来た道を戻れば、最悪、空が元に戻らなくてもさ一緒にいられる理由になると思うし、空から空を見ればまた異なった解決策が浮かぶと思うんだ」
 アンナはニコッと微笑んでうなずいた。もちろん操縦はアンナなのだ。僕らはゴーグルを装着し、機体に乗り込むことにした僕が例によって助手席に乗ろうとしたとき、
「待って」アンナが呼び止める。
「せっかくだから写真撮ろうよ」
僕は今まで生きてきた中で一番の笑顔を出そうと決めたんだ。
「ハイチーズッ!」
――――その写真はなぜだか合成したみたいなかんじがあった。あれだけ汚い空を背景に二人の人間がはち切れんばかりの笑顔でハシャイデいる。人間て、どんなに恐くても、不安でも、泣きたくても、心に灯りが灯らなくても世界の終わりを告げられた時ってきっときっとこんな顔をしているんだろうな。僕はそう思った。その先の世界を楽しみたいから。
 操縦したことのない飛行機でもアンナはわずかな不安も顔に出すことなく、ぎこちないが操縦して見せた。
「やっぱり、空から見ると汚さが増して見えるのね。どう?はがれ落ちた空、元に戻ってる?」
「んー、まだ少ししか進んでないし、何しろ速度が速度だから変化してるようには見えないなー」
「そっか、じゃあもう少し進んで見よっか」
普通の人間なら、こんなに平然と言葉に出すことが出来ないんだろうな、闇に向かって進みながら、なおかつ扱ったことのないものを操縦する不安で押しつぶされるのが関の山だろうな。あらためてアンナの明るさを感じることが出来た。
 少しずつだが、操縦にも慣れてきたようだ、徐々に速度を上げ、僕も後ろを振り返ってみる。
「空、どうなってる?」
「状況はうまく説明できないけど、元に戻ってきてるから安心して」―――― 其の時の空はなんだか不思議でした。二つに切り離された空同士がファスナーで一つに繋がれていくような、針と糸で縫いつけられるように、目に追えるほどゆっくりと修復されていきました。彼女には操縦に集中してほしかったし、それに後から話す理由にもなりますしね。
 さっき通った道の上をなぞるような目で僕は下の世界に目をやった。
「焼きそば、おいしかったね。もっとカメラにフィルムがあったらな、お菓子だって食べ切れないほど持ってくればよかった。」
「写真、焼き増ししたら絶対にちょうだいねっ!忘れたくないんだ、この日のこと」
 僕が抜け出したあの学校。徐々に大きくなって視界に映り、そして入り込む。今日のこの時間は外で体育のはずなのに、グランドに色は無なく、一瞬通り過ぎる時に見えた教室にはあの数学教師と気持ちまでうつむいてしまった生徒たちの面が静止画として窓枠の中に押し込められている。でもね、みんな安心して、数分後に僕らが世界を空色に染めるんだから。
「ねぇ、あの道アンナたちが最初に出会った道よねぇ。なんかずいぶん懐かしいねっ。」
「僕たちってまだ出会って二、三日しか経ってないんだよね、嘘みたいだよ」
「まだ戻っていない汚い空の部分はどこまで続いているんだろうね」
「ずっとずっと終点が先ならいいのにな」、その時の僕は小声でつぶやいたんだ。
「えっ!?今なん言ったの?ぅんーまぁいっか」。あっ!あー、あっちゃっー……。」
「どうしたの!?」
「車よ、車!アンナの大事な車、あのボロ工場に置きっぱなしにしてきちゃった、どうしようー」
「後で一緒にとりに行けば。それにそれまでアンナと一緒にいられる理由になるしね」
「タカヒロ、今初めて『アンナ』って呼んでくれたね、うれしぃぞッ。そうね、タカヒロこれからもヨロシクネッ!」ゴーグルの下でパチッと光ったアンナの左目は僕の心に明かりを灯した。
 まぁ、こんなかんじであの日の思い出を書いてきたんだけど、実はねこの話、もう十年も前の話なんだ。なぜ今頃になって書いているのか?って?それはね、掃除をしていてふと一つの古ぼけたカメラと、二つのゴーグルが出てきたのさ。そう、あの時僕らの心を一つに溶かしてくれた大切なもの。そのカメラのフィルムが一枚だけ余っていた。それを見たらなんだかいても立ってもいられなくなってさ、それで書いてみたってわけよ。
「あなた、ご飯出来ましたよっ」
「ねぇ、写真撮ろうよっ!」
「うんっ!」

制作期間 二〇〇四/十一/七(日)~二〇〇五/一/二十七(木)
編集期間 二〇〇五/二/三(木)~二〇〇五/二/十五(火)

「へんな会社」のつくり方 Book 「へんな会社」のつくり方

著者:近藤 淳也
販売元:翔泳社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|
|

« 白の旋律〈白の光〉~旋律№5「トス」~現実世界&裏world~~ | トップページ | 白の旋律〈白の詩〉~旋律№7  ぼくが俺と誓った日~ »

白の旋律〈白の光〉」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 白の旋律〈白の光〉~旋律№5「トス」~現実世界&裏world~~ | トップページ | 白の旋律〈白の詩〉~旋律№7  ぼくが俺と誓った日~ »